練馬に綱吉の御殿があった

第3回 綱吉は練馬に御殿を持っていた〜その3

語り手:大江戸蔵三
都内の某新聞社に勤める整理部記者。三度のメシより歴史が好きで、休日はいつも全国各地を史跡めぐり。そのためか貯金もなく、50歳を過ぎても独身。社内では「偏屈な変わり者」として冷遇されている。無類の酒好き。

聞き手:氷川なぎさ
都内の某新聞社に勤める文化部の新米記者。あまり歴史好きではないのだが、郷土史を担当するハメに。内心ではエリートと呼ばれる経済部や政治部への異動を虎視眈々と狙っている。韓流ドラマが大好き。

江戸の革命家?由井正雪

天下を揺るがす大事件って何ですか?もったいぶらずに早く教えて下さいよ…。


まず大事件の第一弾は「慶安の変」。「由井正雪の乱」とも言う。慶安4年(1651)に起こったクーデター未遂事件だ。家綱が幼君であることを知った軍学者・由井正雪とその一党が、その機に乗じて幕府の転覆を企んだ大事件だ。

なんだかテレビの時代劇みたい。鬼平とか遠山の金さんとか出てこないの?


時代が違うからねぇ。同じ時代なら水戸黄門がいるけどね。残念ながらこの事件には関わりがない。この事件の背景には家康・秀忠・家光と3代に渡って繰り広げられてきた幕府の「武断政治」がある。諸藩の力を弱めて中央に権力を集中させる、いわゆる幕藩体制の確立だな。これによってたくさんの藩が改易、つまりお取り潰しの憂き目にあった。

今で言うリストラとか子会社の整理みたいなもの?



まぁ、ちょっと違うけど、心情的には似てるな。取りつぶされた藩のお侍達は職を失って路頭に迷うからね。家光の代までで外様大名82、親藩・譜代49藩が潰された。もしアナタが地方に住んでいて、職にあぶれたらどうする?

とりあえず仕事の見つかりそうな場所に引っ越すわね。東京とか大阪とか…。


その通り。だから地方から来た食い詰め浪人が江戸にワンサカと増えていった。傘張りなんかやって生計を立てる、まさに時代劇の世界だな。でもまぁ、その頃の江戸は高度経済成長の真っ只中にいたから、何とか食べていける程度の仕事が、あるにはあったんだよ。

21世紀の現代でも木場のハローワークに行くと、凄い数の人が仕事を探してるもんね。何だか身につまされるわ。


そんな時に彗星のように現れたのが橋下大阪市長、じゃなくて由井正雪だ。静岡の染物屋の家に生まれ、17歳で江戸の親類に奉公へ出る。しかし、幼い頃からずば抜けて頭が良かったから、一介の町人のままでは収まらなかった。楠木正成の子孫だという軍学者・楠木正辰に入門するとその才能を発揮し始めて、やがて師匠の娘と結婚して婿養子となった。

ってことは「逆玉」で町人から武士になっちゃったってこと?やるわね〜。


しかも楠木正雪とか由井民部之助橘正雪なんて、いかにも名家の出みたいな名前に変えて、神田連雀町に軍学塾「張孔堂」を開くんだな。これは三国志に出てくる軍師の、張良と孔明にちなんだネーミングだ。

へぇ〜、武士になっただけじゃなくて、ちゃっかりお義父さんの跡継ぎになったわけね。なんだか「成り上がり」って感じ。


まぁ、そういう意味でこの人は天賦の学才もあったけど、見方を変えれば天性のカリスマであったかもしれないね。一時は3000人もの門下生を抱えていたらしい。しかも、門下生の中には大名の子弟や旗本なども多く含まれていたというから驚きだ。関ヶ原から半世紀、戦のない世の中になって久しかったから、武士の本分である軍事行動に対する憧れも相当強かったのかもしれない。

社会経験の無いお坊ちゃん達が陥りそうな世界よね。今で言ったらゲーマーとか…。


そういった武家の子弟がたくさんいたから、当時40〜50万人いたと言われる浪人達は仕官目当てで正雪の許を訪ねる。あわよくばご紹介にあずかって…ということなんだけど、正雪はこうした浪人達、言い換えれば不満分子のハートをがっちり掴んでいくんだな。
うわっ、何だかわくわくしてきた。それからどうなるの?



それが順風満帆だった正雪本来の意志だったのか、或いは禄を失った者の悲惨な状況を見て変わったのか、今となってはわからないけど、浪人達が門弟に加わっていったことで、徐々に「御政道」批判のトーンが強くなっていく。その結果、折角幕府から仕官の話を持ちかけられたのに断ってしまうんだ。そして、このことがさらに浪人達の支持を集める原因になってしまう。
でも、お弟子さんの中でも、大名や旗本のお坊ちゃん達は立場が違うんじゃないの? 別に生活にも困ってないし…。

そういった富裕層の子弟やインテリ層が起こしたのが60年代の学生運動や90年代のオウム事件だ。お坊ちゃん育ちで学があると、純粋にイデオロギーとか宗教で「世の中が変えられる」なんて信じちゃう。この時代もそんな空気があったのかもしれないね。そして、そういった潮流の最たるものが世界を席巻した「マルクス・レーニン主義」だ。
えっ、急に話が難しくなってきたけど、どういうこと?



つまるところ、革命ですよ。正雪とその一派は浪人達による武力革命を画策するんだ。


←静岡市の菩提樹院にある由井正雪の銅像
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